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2015.05.27

非上場株式の評価損について

今回は「非上場株式の評価損について」です。

どんな会社でも非上場会社に出資をすることがありますが、

その発行法人の純資産価額が取得時に比べ、おおむね50%以上、

下回った場合、評価損を計上できます。

参考:法人税基本通達9-1-9
http://tinyurl.com/96dsa9a

しかし、その発行法人の増資を引き受けた場合、

増資前、増資後のいずれもが債務超過であったとしても、

言い換えれば、増資後でも債務超過が解消できなかったとしても、

増資後の株式に関する評価損は計上できないことになっています。

参考:法人税基本通達9-1-12
http://tinyurl.com/96dsa9a

しかし、この通達で評価損の計上を排除しているのは、

あくまでも増資【後】の株式についてですが、これが拡大解釈され、

否認され、国税不服審判所で争った事例があります(平成7年4月14日)。

この事案の前提条件を簡単に書くと、下記となります。

○ 否認されたA社の事業年度は平成元年4月21日~平成2年4月20日

○ この事業年度にB社の株式評価損として、約9,900万円を計上

○ 平成2年4月10日、B社の取締役会で増資の決議

○ 平成2年4月18日、A社は増資に関する社内稟議の完了

○ 平成2年4月23日、A社はB社に対する貸付金をDESにより増資 

だから、期末日現在は増資【前】であり、

通達で排除している増資【後】の株式評価損には該当しません。

それにも関わらず、否認されたのです。

ちなみに、課税庁側の主張は下記となっています。

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請求人は、本件評価損を計上した本件事業年度終了の日の直前の
平成2年4月18日にB社に対し4,455株(1株当たり50,000円、
増資払込金額222,750,000円)の本件増資払込みを行う旨の
社内決裁を了し、翌期首の同年4月23日にその払込みを終えている。

このことは、請求人が、B社の債務超過の状態が近い将来も回復しないとして決算上本件評価損を計上しておきながら、他方でB社に対する投資価値を認めて増資払込みに応じたものであり、本件増資払込みはB社の業況の回復を見込んだ上での増資と認められる。

しかも、請求人の計算では、1株当たりの純資産価額がマイナスとなるB社に、増資総額の2分の1に当たる222,750,000円という多額の
増資払込みをする以上は、B社の自力による業況の回復を当然に期待し、かつ、B社の発行済株式総数の半数を有する請求人のB社に対する企業支配の継続を予定して本件増資払込みが行われたものと認められる。

このような場合において、増資払込みに応じた法人は、増資払込みを受ける法人が増資直前に債務超過の状態にあり、かつ、増資後においてなお債務超過の状態が解消していないとしても、法人税法施行令第68条第2号ロに規定する事実はないものとして、増資払込み直後に株式の評価損を計上することは認められず、増資払込み後相当期間経過してなお債務超過法人の業況が回復せず、むしろ悪化しているというような事情が明らかになった段階で評価損を計上するのが相当と解されている。

そこで、請求人の場合をみると、増資払込み決定直後である本件事業年度終了の日に本件評価損を計上し、増資払込み決定後の翌期首において本件増資払込みを行っているのであるから、増資払込み決定から払込みまでの間に本件事業年度終了の日を挟んでいるものの、その会計処理の形態は、増資払込み直後の株式の評価損計上と何ら変わりがないことから、本件事業年度において本件評価損を損金の額に算入することはできない。
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しかし、国税不服審判所は下記の通り、課税庁側の主張を退け、

全部取り消しという結論に至ったのです。

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原処分庁は、請求人が請求人の計算では1株当たりの純資産価額がマイナスとなるB社に、多額の増資払込みをする以上は、B社の自力による業況の回復を当然に期待し、また、増資払込み決定から払込みまでに本件事業年度終了の日を挟んでいるものの、その会計処理の形態は、増資払込み直後の株式の評価損計上と何ら変わりがないことから、本件事業年度において本件評価損を損金の額に算入することはできない旨主張するが、親会社が欠損の子会社を存続させるためにその子会社に対して増資払込みをすることは、その事情においてやむを得ないものがある場合があることもあり、請求人の場合には、前記2の(1)のイの(ニ)のとおり関連会社が同じ経済圏で営業している等の事情を併せ考慮すれば、単に増資払込みの事実をもって業況の回復が見込まれると解するのは相当でない。

また、増資直後の株式の評価減が認められないとしても、増資直前の事業年度についてまで無条件に旧株について株式の評価減を行うことを妨げるものではないと解するのが相当であるところ、請求人の場合、前記イの(ト)のとおり、本件事業年度にB社の増資に対する本件増資払込みを行う旨の社内決裁を了しているものの、翌事業年度に本件増資払込みが貸付金の充当という形で行われていることから、翌事業度においての本件増資払込みが本件事業年度の株式の評価損の計上に影響を与えるものではないと解するのが相当である。

そうすると、前記イの(ハ)並びに前記ロの(ヘ)及び(ト)のとおり、
B社の財務状態が大幅な債務超過に陥ったことに伴い、主たる株主などが多額の撤収費を支払ってB社の経営より退いたこと、B社は多額の繰越欠損金を有し、請求人から多額の借入金をし、その利息を支払っていないこと等を考慮すると、B社の業況が早期に回復することが見込まれる状態にあるとするのは相当ではない。
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特に最初の1文の後半「親会社が~相当でない。」という部分に注目ですね。

税理士として、この裁決をどう思われますか?

そもそも法人税基本通達の前文には下記の記載があります。

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この通達の具体的な運用に当たっては、法令の規定の趣旨、制度の背景のみならず条理、社会通念をも勘案しつつ、個々の具体的事案に妥当する処理を図るように努められたい。

いやしくも、通達の規定中の部分的字句について形式的解釈に固執し、全体の趣旨から逸脱した運用を行ったり、通達中に例示がないとか通達に規定されていないとかの理由だけで法令の規定の趣旨や社会通念等に即しない解釈におちいったりすることのないように留意されたい。
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ましてや、今回の事例は通達の形式を超え、

増資前の株式の評価損を否認した事例となっています。

確かに、期末日直後の増資であり、

増資直後の評価損の計上というケースと極めて実態が近いことは認めます。

しかし、実態が近いからといって、形式は形式として重視されるべきであり、

拡大解釈による否認は排除されるべきものです。

もし、顧問先で同様の事例があるならば、

この裁決を思い出して頂ければと思います。

それから、話は変わりますが、そもそも債務超過の会社に出資した場合の評価損はどう考えるべきなのでしょうか?

これは法人税基本通達9-1-9(注)2に記載があり、

「法人税基本通達逐条解説」でも下記の通り、具体的に解説されています。

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取得時における1株当たりの純資産価額がプラス100の場合には、
これに比して505以上下回るというのは、プラス50以下となることで
あるが、マイナス100が50%以上下回るというのはマイナス150以下
となることである。
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ここも併せて覚えておいて頂ければと思います。

なお、これとの比較ですが、「法人税基本通達の疑問点」(ぎょうせい)

には下記記載があります(一部改訂、一部略)。

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Q.取得時の純資産価額がゼロの場合の50%基準の適用はどうするか?

A.50%基準は意味を持たなくなり、取得経緯等を総合勘案して判定する
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厳密に計算して純資産価額が0円になる会社は現実的にはないかと思います。

ただし、

○ 債務超過の会社への出資なら50%基準の適用あり

○ 純資産価額が0円の会社への出資なら50%基準の適用なし

というのも違和感を覚えないではないですが、こう書いてありますので、

併せてご参考にして頂ければと思います。

もちろん、ここに書いてあることは基本通達に明記されていることでは
ありませんが・・・。

いずれにせよ、非上場株式の株式の評価損を検討する場合、

実務上は迷う要素が入り込むこともあります。

そういう場合、この裁決も含め、ご検討頂ければと思います。

 

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

2012年10月当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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