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2016.09.07

調査開始後の修正申告(その2)

※2015年9月配信当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

 

税理士の見田村元宣です。

さて、今回は「調査開始後の修正申告(その2)」ですが、

神戸地裁判決(平成12年3月28日、大阪高裁にて確定、納税者勝訴)を

取り上げます。

まずは、この事案の流れです。

○平成6年7月5日:相続開始

○平成9年4月14日:税務調査の申し入れ

○平成9年4月21日:税務調査を行い、土地の申告漏れの指摘

○平成9年5月15日:土地以外にも申告漏れ財産があることの指摘

○これを受け、税理士が相続税の計算をし直したところ、基礎控除額の

 計算誤りがあり、その旨を申し立てた(税務調査官は基礎控除額に

 ついては指摘していない)

○平成9年5月19日:広大地の評価減の不採用、不整形地補正などの

 誤りがあり、申告漏れ財産を加算しても、当初申告額を下回る旨を

 税理士が調査官に申し立てた

○平成9年5月23日:調査官は土地等の評価額を検討した結果、

 当初申告額よりも増額になる旨を回答

○平成9年7月10日:基礎控除額の計算誤りのみを是正し、修正申告

この状況の中、神戸地裁は下記と判断しました。

○認定の事実によれば、高山誠一(被相続人)の原告を含む共同相続人全員

 の相続税の申告につき委任を受けていた川原勇税理士は、税務調査が開始

 されたことを受け、当初申告の申告内容を見直したところ、本件基礎控除額

 の計算誤りに気付き、調査担当職員から指摘を受ける前に、本件基礎控除額

 の計算誤りにつき申し立て、原告以外の共同相続人については過大申告分に

 つき還付するよう要請した、というのであり、本件基礎控除額の計算誤りを

 是正しても原告の申告期限までに納付すべき税額は納税猶予により零のまま

 であること及び高山誠一の共同相続人全員の相続税の各申告書を共同して

 提出していたこと等の事情にもかんがみれば、川原勇税理士は、右還付を

 要請した時点で既に、本件基礎控除額の計算誤りを是正した原告の修正申告書

 を提出する旨の決意をし、調査担当職員に対しその意思を黙示的にせよ

 表明していたものということができる。

○川原勇税理士が現実に修正申告書を提出したのは右の時点から2か月弱後

 のことであるが、それは、川原勇税理士が、申告漏れと指摘された財産等

 につき検討し、調査担当職員に説明等をしていたためであり、原告(川原
 
 勇税理士)は、本件基礎控除額の計算誤り以外に原告の納付すべき税額が

 増額される事情があればその是正も合わせて修正申告するが、そのような

 事情がなければ本件基礎控除額の計算誤りのみを是正した修正申告を

 しようと考えていたものと推認される。

○そうすると、本件修正申告は、国税通則法65条5項にいう「更正がある

 べきことを予知してされたものでないとき」に該当すると認められる。

○被告は、川原勇税理士が、調査担当職員に対し、申告漏れの財産の価額を

 加算しても、本件当初申告で課税財産として申告していた土地の価額の

 評価を減額すべきであるから納付すべき税額は本件当初申告よりも減少

 する旨申し立てたり、調査担当職員から本件基礎控除額の計算誤りの点も

 含めて修正申告を行う必要がある旨説明を受けた以降も、当該計算誤りを

 原因とする過少申告加算税の賦課の適否等について、調査担当職員と交渉

 しているので、原告は、川原勇税理士が本件基礎控除額の計算誤りを認識し

 調査担当職員に対し当該計算誤りについて申し立てた段階では、本件修正

 申告を決意していたと認めることはできないのであって、その後、川原勇

 税理士と調査担当職員の交渉が平行線をたどり、本件基礎控除額の計算誤り

 を含めた更正がされるであろうことが客観的に相当程度の確実性をもって

 認められる段階に至って、本件修正申告を決意し、修正申告書を提出した

 ものと認められる旨主張し、これに沿う証拠として調査担当職員松浦幸信

 の陳述書を提出する。

○しかし、本件当初申告における納付すべき税額は221万6500円に

 すぎないこと(争いがない)及び本件修正申告は課税価格を全く変更

 させずに本件基礎控除額の計算誤りのみを是正したものであること(争い

 がない)等に照らせば、川原勇税理士が、調査担当職員に対し、申告漏れ

 の財産の価額を加算しても、本件当初申告で課税財産として申告していた

 土地の価額の評価を減額すべきであるから(課税価格だけでなく)納付

 すべき税額が本件当初申告よりも減少する旨申し立てたとの趣旨の陳述

 記載部分は信用し難く、また、川原勇税理士が、本件基礎控除額の計算誤り

 を原因とする過少申告加算税の賦課の適否等について、調査担当職員と

 交渉していたことは、前認定のとおりであるが、本件基礎控除額の計算誤り

 を是正した修正申告をしても、原告については納税猶予により申告期限まで

 に納付すべき税額は零のままであるから、川原勇税理士としては、本件

 基礎控除額の計算誤りを是正した修正申告をすることにより、原告以外の

 他の共同相続人について減額更正を得て還付を受けることに交渉の主眼が

 あったと認められ、かつ、その還付額は課税価格如何によることから、

 川原勇税理士としては、調査担当職員から指摘された申告漏れの財産の

 価額を加算しても、本件当初申告で課税財産として申告していた土地の

 価額の評価が減額されるべきである旨申し出ていたのに対し、調査担当

 職員は右評価の減額が認められないとして交渉が平行線をたどっていた

 ものであることからすれば、右交渉より前の段階において原告(川原勇

 税理士)が本件修正申告をする意思を有していなかったということには

 ならない。したがって、被告の右主張は採用することができない。

○以上のとおり、本件修正申告は、国税通則法65条5項にいう「更正が

 あるべきことを予知してされたものでないとき」に該当すると認められ、

 同条1項の適用はないから、本件賦課決定処分は違法であり、取り消される

 べきものである。

先日のメルマガにも書いた通り、過少申告加算税の賦課決定が是か非かは、

「客観的に相当程度の確実性をもつて認めるに足りる段階に達したか否か」

です。

税務調査が活発に行われる時期ですので、税務調査の開始後であっても、

自ら修正申告をするケースはあるのです。

 

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