2015.06.25

税法用語の解釈について

今回は「税法用語の解釈について」です。

税務判断をする場合、「そもそも『○○』という用語の定義は?」と

考えることがあります。

もちろん、税法上にその定義があればいいのですが、無い場合もあり、

その判断に迷うことがあります。

こういう場合はどう考えればいいのでしょうか?

これに関して、参考になる判決(東京高裁、平成14年2月28日)が

あります。

この事案の内容自体(ローン控除の可否)を論じるつもりはないのですが、

前提条件という意味から判決文を加筆修正して記載します。

———————————————————————
旧建物(旧建物)を取り壊して新たに建物を建築した控訴人が、

平成9年分の所得税について、旧建物の取壊しと本件建物の建築が

租税特別措置法41条に定める「改築」に当たり、同条が定める住宅の

取得等をした場合の所得税額の特別控除を適用したところ、

これを否認されたという事案です。
———————————————————————

なお、争点は下記2点となります。

○ 本件建築が措置法41条に定める「改築」に該当するか否か

→ 納税者は該当し、ローン控除OKと主張

○ 措置法41条に定める「改築」が建築基準法に定める「改築」と

  同義であるか否か

→ 課税庁は同義であると主張し、ローン控除不可と主張

→ 課税庁は建築基準法からの借用概念であると主張

結果は納税者が勝ったのですが、その判決文の中に興味深い部分があるので、

部分的にご紹介します。

ちなみに、静岡地裁では納税者敗訴となりましたが、

東京高裁で納税者の逆転勝訴となった判決です。

なお、控訴人は納税者、被控訴人は静岡税務署長で、

東京高裁はその判示の中で次のように述べています。

———————————————————————
法令において用いられた用語がいかなる意味を有するかを判断するに

あたっては、まず、法文自体から用語の意味が明確に解釈できるかどうかを

検討することが必要であり、法文から用語の意味を明確に解釈できない場合には、

立法の目的及び経緯、法を適用した結果の公平性、相当性等の実質的な

事情を検討のうえ、用語の意味を解釈するのが相当である。
———————————————————————

つまり、まずは「法文からの解釈」、そして、それが明確でない場合には、

立法目的などからの「実質的事情を検討した解釈」としているのです。

以下、判決文をまとめると、下記となります。

(静岡税務署長の主張)

○ 被控訴人は措置法41条に規定する「政令で定める工事」は「増築、

  改築、建築基準法第2条第14号に規定する大規模の修繕又は同条

  第15号に規定する大規模の模様替」である旨を規定し、その条文自体

  に建築基準法を引用しているから借用概念である。

○ 措置法施行規則が特別控除の適用を受ける場合の添付書類として、

  建築基準法6条3項の規定による確認の通知書の写し若しくは

  同法7条3項の規定による検査済証の写しを挙げていることからすれば、

  措置法41条の「改築」は建築基準法の「改築」からの借用概念である。

○ 税法以外の法分野で用いられている法律用語が税法の規定中に

  用いられている場合には、法的安定性の見地から両者は同一の意味内容

  を有していると解すべきである。

○ 租税に関する法規が一般私法において使用されていると同一の用語を

  使用している場合には、通常、一般私法上使用されている概念と同一の

  意義を有する概念として使用されているものと解するのが相当。

(東京高裁の判断)

○ 措置法施行令中の建築基準法の引用は「大規模の修繕」及び「大規模の

  模様替」についてのものであり、「改築」について同法を引用している

  わけではない。

○ 引用がされていることをもって、直ちに措置法41条の「改築」が

  建築基準法の「改築」と同義であると解釈することはできない。

○ むしろ、措置法施行令が「大規模の修繕」及び「大規模の模様替」に

  ついて建築基準法を引用しながら、「改築」について建築基準法を引用

  していないのは、「改築」については建築基準法と同義に解するもので

  ないことを前提としているともいい得るのである。

○ 特別控除の適用を受けるためには、納税者が床面積等において

  所定の条件を満たす建築をすることが必要なので、添付書類として

  建築基準法上の確認通知書及び検査済証を挙げていることは、

  当該建築がこうした条件を満たしていることを確認するためである

  とも考えられるのである。

  そうすると、これらの書類が添付書類とされていることをもって、

  措置法41条の「改築」が建築基準法の「改築」と同義であると断ずること

  もできないといわなければならない。

○ 「改築」という用語は、建築基準法にのみ使用されている用語ではなく、

  たとえば借地借家法においても使用されている用語である。

  したがって、被控訴人の主張を前提としても、措置法41条の「改築」

  が建築基準法の「改築」と同義であるという結論を導き出すことは

  できない。

  むしろ、被控訴人の主張するところを前提とすると、措置法41条の

  「改築」は、公法である建築基準法の「改築」ではなく、一般私法の

  一つである借地借家法の「改築」と同義に解すべきである。

○ 措置法41条に定める「改築」の意義が明確であるとはいい難く、

  少なくとも、措置法41条の「改築」が建築基準法の「改築」と同義

  であることが法文上明確であるといえないことは明らかである。

○ 用途、規模、構造が著しく異なるかどうかで、措置法の適用の有無を

  区別する実質的な理由あるいは合理的な理由はなく、建築基準法の

  「改築」の概念を借用する実質的な根拠はないといわなければならない。

  むしろ、構造について先に検討したところからすると、建築基準法の

  概念を借用することは、優良な住宅ストックの確保という措置法の

  本来の目的に反する結果をもたらすとさえいえるのである。

そして、判決文の後半(判示(7))の中でこう記載しています。

———————————————————————
税法中に用いられた用語が法文上明確に定義されておらず、他の特定の法律

からの借用概念であるともいえない場合には、その用語は、特段の事情が

ない限り、言葉の通常の用法に従って解釈されるべきである。

なぜなら、言葉の通常の用法に反する解釈は、納税者が税法の適用の有無を

判断して、正確な税務申告をすることを困難にさせる。

そして、さらには、納税者に誤った税務申告をさせることになり、

その結果、過少申告加算税を課せられるなどの不利益を

納税者に課すことになるからである。
———————————————————————

では、ここに記載されている「言葉の通常の用法」とは

どう考えるべきなのでしょうか?

ここには100%の明確な答えは無いのですが、

私が参考にしているのが「広辞苑」です。

なぜならば、内閣法制局などで「言葉の意味」を調べる際に

使用されているからです。

この辞典は「会計事務所には絶対にあるべき1冊」なので、

お持ちでなければ、是非、ご購入ください。

税務判断をする場合、用語の定義が明確でない場合はよくあります。

また、他の特定の法律からの借用概念でない場合もあります。

こういう場合は広辞苑でその定義を調べ、

どう適用すべきかを検討することが重要なのです。

税法上、定義が明確でない言葉の意味を検討する際は、

上記のプロセスが重要なので、覚えておいて頂ければと思います。

 

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

2013年1月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

毎週水曜日に配信する『税務調査対策のメールマガジン』では、最新の税務調査事情はもちろんのこと、調査官の心理、税務署のウラ側など元国税調査官だからこそ語れるマニアックなテーマまでをお届けします。
「こんなことまで話して本当に大丈夫ですか?」 と多くの反響を頂く税理士業界では話題のメルマガです。
お名前とメールアドレスを登録するだけで 毎週【 無料 】でメルマガを配信いたします。