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2015.12.17

手形支払いによる短期前払費用

こんにちは。日本中央税理士法人の見田村元宣です。

今回は「手形支払いによる短期前払費用」です。

3月も終わりに近づき、3月決算の会社は今期の節税に関する最終判断を

しなければならない時期となりました。

その際に短期前払費用を検討する場合もありますが、これに関する注意点を

考えてみたいと思います。

今回の事例は松山地裁(平成13年10月24日)を取り上げます。

具体的な内容の前に該当通達を確認しましょう。

(短期の前払費用)

2-2-14 前払費用(一定の契約に基づき継続的に役務の提供を受けるために

支出した費用のうち当該事業年度終了の時においてまだ提供を受けていない

役務に対応するものをいう。以下2-2-14において同じ。)の額は、当該事業

年度の損金の額に算入されないのであるが、法人が、前払費用の額でその支払

った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合において、

その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の

損金の額に算入しているときは、これを認める。

(注) 例えば借入金を預金、有価証券等に運用する場合のその借入金に係る

支払利子のように、収益の計上と対応させる必要があるものについては、

後段の取扱いの適用はないものとする。

通達には具体的な記載はないのですが、「法人税基本通達逐条解説」には

「いわゆる支払手段としての手形の振出も、本通達の「支払った場合」に

含まれると考えられる」と記載されています。

本件では手形「12通」を振出し(元々の毎月の支払日と同一期日が支払日)、

その額も多額であったことから、問題になった事案です。

結果は納税者の敗訴となり、広島高裁(第一審の判断を維持)を経て、最高裁

にて上告不受理(平成17年3月1日)となりました。

ここで敗訴理由ですが、重要性の原則、継続性の原則に反するとなっています。

以下の判決文はTAINS(Z251-9010)から抜粋しますが、

一部改定をしています。

○ 重要性の原則について

a 原告の申告所得金額は、平成6年11月期が4842万6755円、平成

7年11月期が4023万8244円であるのに対し、本件リース料を含む

製造原価の賃借料勘定の額は、平成6年11月期が9930万6428円、

平成7年11月期が6980万3834円である。

         
b 当期製品製造原価の総額(平成5年5月1日から同年11月30日までの

事業年度(以下「平成5年11月期」という。)が5億8405万3845円、

平成6年11月期が11億0026万5031円、平成7年11月期が11億

4060万3810円である。)に対する賃借料勘定の額(なお、平成5年

11月期は1665万9033円である。)の割合は、平成5年11月期が

2.85パーセント、平成6年11月期が9.02パーセント、平成7年11

月期が6.11パーセントである。

c 製造経費の総額(平成5年11月期が1億0439万7942円、平成6

年11月期が2億4101万4243円、平成7年11月期が2億0039万

9153円である。)に対する賃借料勘定の額の割合は、平成5年11月期が

15.95パーセント、平成6年11月期が41.20パーセント、平成7年

11月期が34.83パーセントである。

d 賃借料勘定の額に対する本件リース料の額の割合は、平成6年11月期が

49.96パーセント、平成7年11月期が88.40パーセントである。

e 支払手形勘定残高(平成6年11月期が3億1208万7965円、平成

7年11月期が3億0759万5536円である。)に占める本件リース料に

係る手形の金額(本件リース料の額と同じ。)の割合は、平成6年11月期が

15.89パーセント、平成7年11月期が20.06パーセントである。

そこで検討する。本件リース料の額は平成6年11月期が4961万6400円、

平成7年11月期が6171万2400円と極めて多額であることは前判示の

とおりである。

なお、東京地裁(平成17年1月13日)では販管費の約5%でありながら、

金額が2億円超、当期利益が約2,700万円だったことがから、重要性の

原則に反するということで、納税者の敗訴となっています。

また、長崎地裁(平成12年1月25日)でも下記状況により、重要性の原則

に反するということで、納税者敗訴となっています。

本件において、本件傭船料中の前払費用相当分は4583万3333円

(5000万円から前記損金算入分を控除した残額)と多額である上、以下の

ような事情も認められ、原告の財務内容に占める割合や影響も大であって、

前払いした5000万円全額を平成7事業年度の費用として計上し、同年度の

損金の額に算入することは、重要性の原則で認められる範囲から逸脱するもの

であり、許されない。

(1)平成7事業年度の傭船料勘定の額は前事業年度に比し246.21パーセ

ント増加し、平成7事業年度の工事原価勘定の総額は前事業年度に比し

43.86パーセント増加している。

(2)平成7事業年度、前事業年度の各売上高に対する傭船料勘定の各割合は、

それぞれ19.78パーセント及び8.61パーセントである。
   

(3)平成7事業年度の工事原価勘定の総額及び傭船料勘定の額に対する本件

傭船料の金額の各割合は、それぞれ16.02パーセント及び60.69パー

セントである。
   
(4)平成7事業年度の売上高勘定及び税引前当期利益勘定に対する本件船舶

の傭船料の金額の割合は、それぞれ12.00パーセント及び284.99パ

ーセントである。
   

(5)平成7事業年度の支払手形勘定残高にしめる本件傭船料に係る手形の

金額の割合は、78.82パーセントであり、同勘定残高を前事業年度と比較

すると、203.72パーセントの増加である。

○継続性の原則について

・平成6年11月期の期末に至って、翌期である平成7年11月期の12か月

分のリース料の支払方法について、従前の口座振替から本件リース契約の約定

支払日を支払期日とする手形12通を平成6年11月期内に振り出し、交付す

る方法に変更する旨の合意が成立したものと認められ、平成7年11月期にも、

同様に、同期期末に至って翌期の手形12通を振り出し、交付する支払方法が

とられたことが認められる。
          

・しかし、前記認定の事実によれば、上記支払方法の変更によるも、本件リー

ス料の実際の支払は、本件リース契約の約定金額と同一の金額を額面とし、

同契約の約定支払日と同一日を支払期日とする手形の決済によりなされ、口座

振替による場合と実質的に何ら変化がなかったこと、乙自身、本件リース料の

支払方法を手形振出しに変えた理由が、手形による支払であれば、経済的な

実質は毎月の口座振替とほとんど変わらないと考えたことにあることを認めて

いること、リース会社においても、上記実際の支払に変更がなく、特に不利益

を被らないことから、原告の申出を承諾し、収益計上は手形の交付日ではなく、

各手形の手形期日としていたこと、本件リース契約のようなファイナンス・リ

ースにあっては(上記認定した本件リース契約の内容のほかに、乙12、証人

戊、弁論の全趣旨により認める。)、リース期間の利息収入をも含めてリース

料が計算されるところ、仮に、前払が行われるとすると、リース会社はその間

の利息収入を失うなどの不利益を被ることとなり、実務上、前払への契約の変

更は想定し難い上、少なくとも、前払契約への変更に伴ってリース料の再計算

が必要になるはずであるのに、本件ではこれが行われていないこと、本件に

おいては、前払とする意味での変更の合意が契約書面で明確に行われていない

ことにかんがみると、本件において、当事者間に合意された変更は、単に支払

方法を口座振替による方法から同一期日を支払期日とする手形決済に変更する

ものにすぎず、さらに進んで本件リース契約における本件リース料を「前払」

とする旨の変更の合意までなされたものとは認め難い。

・原告が、本件リース契約に基づくリース料の支払について、契約締結当初か

ら平成6年11月期までは、約定どおり口座振替の方法によって本件各リース

会社へ継続して支払い、月々損金の額に算入していたこと、にもかかわらず、

同期の期末において、突如、翌平成7年11月期の12か月分の手形12通を

振り出して、交付し、本件リース料を短期の前払費用として損金の額に算入し

たことは前判示のとおりである。そして、上記損金処理の変更がリース料の

支払時期に関する契約の変更に基づく場合には、継続性の原則を問題とする

余地がないと考え得るが、上記第3の3(3)ア(イ)に判示したとおり、

本件リース料に関する原告とB又はCとの間の変更の合意は、支払方法の変更

に止まり、リース料の支払時期に関し、前払とする旨、契約内容を変更する

ものとまで認められない以上、仮に、原告による本件手形の振出し、交付が

「前払費用」に該当するとしても、継続性の原則はなお維持すべきものといえ

るから、本件リース料を本件各事業年度の損金の額に算入することは許されな

いというべきである

いかがでしょうか?

私自身、顧問先から短期前払費用の適用に関して「手形で支払ってもOKなら、

翌期の元々の支払日を支払期日とする支払手形でもOKですか?」と聞かれた

こともあります。

また、税理士から「結果として、一括であろうが、本来の支払日であろうが、

期末までに振り出してあれば、逐条解説の要件を満たしますよね」と聞かれた

こともあります。

しかし、本判決では下記状況も納税者敗訴の1要因となっていますので、

ご注意頂ければと思います。

○本件リース料の実際の支払は、本件リース契約の約定金額と同一の金額を

額面とし、同契約の約定支払日と同一日を支払期日とする手形の決済により

なされ、口座振替による場合と実質的に何ら変化がなかったこと

○本件リース料の支払方法を手形振出しに変えた理由が、手形による支払であ

れば、経済的な実質は毎月の口座振替とほとんど変わらないと考えたことに

あることを認めていること

 

※ブログの内容等に関する質問は
一切受け付けておりませんのでご留意ください。

※2014年3月の当時の記事であり、
以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

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