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2016.06.22

回収不能の金銭債権の貸倒れ

※2015年3月配信当時の記事であり、

以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

さて、今回は「回収不能の金銭債権の貸倒れ」ですが、平成14年2月5日の裁決を取り上げます。

法人税基本通達9-6-2に定める「事実上の貸倒れ」ですが、これに関する争いが多いことも事実です。

そこで、今回はこれに関して納税者の主張が認められた事例を解説します。

なお、本裁決は全部取消しとなり、重加算税の賦課決定も取り消されています。

まずは、本題の前に該当通達を見てみましょう。

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法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合には、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理をすることができる。

この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理をすることはできないものとする。

(注) 保証債務は、現実にこれを履行した後でなければ貸倒れの対象にすることはできないことに留意する。

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この「事実上の貸倒れ」ですが、非常に判断が難しい要素がありますが、本裁決では国税不服審判所は下記と判断しています。

なお、いつものメルマガでは前提条件を書きますが、本件は取引形態が複雑であり、また、なれ合い訴訟による和解を課税庁が確定判決と同様の効力を有するものと誤認したなどの経緯があるため割愛し、「事実上の貸倒れ」の判断の部分に絞り解説します。

なお、本題からは外れますが、弁護士と仕事をする場合、「訴訟をすれば、税務的な保全ができる」と言われることもありますが、それがなれ合い訴訟である場合、否認されている事例があることも事実です。

そのため、「訴訟=税務的な保全」ではないことにご注意ください。

話を戻します。

本件における債務者(甲社)は「平成8年8月7日付の日刊○○紙によれば、甲社は、2回目の不渡りを出し、同年8月6日に銀行取引停止となり、負債総額は約950億6,900万円である旨報じている。」という状況です。

以下、国税不服審判所の判断です。

○法人税法第22条(各事業年度の所得の金額の計算)第3項第3号は、当該事業年度の損失の額で資本等取引以外の取引に係るものは損金の額に算入される旨を同条第4項では、その損金の額に算入される額は一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算する旨規定している。

 

○したがって、法人の有する金銭債権が債務者の債務超過等によって貸倒れになった場合には損金の額に算入されるのであるが、その判断基準は、法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等からみてその全額が回収できないことが明らかになった場合に、その明らかになった事業年度において貸倒れとして損金経理することができると解するのが相当である。

 

○この場合において、当該金銭債権について担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金経理することはできないものと解される。

○甲社の資力の状況等については、銀行取引が停止され、多額な債務超過が継続しており、休業状態にあること、また、繰返し土地を譲渡しているが、多額な譲渡損失が発生していることから、所有している土地の価値は大幅に下落していると認められ、本件和解が成立した平成9年12月11日には、その資産内容は極めて悪い状況にあり、債務超過の状態が相当期間継続していたことが認められ、②上記1の(3)のイ、ハ及びニの各覚書によっても、請求人は、甲社に対する金銭債権に対して担保物を有していないことからすると、甲社には、請求人の金銭債権を返済する資力はないと認められる。

○請求人は、上記①及び②のことが甲社に対する金銭債権の全額が回収できないことが明らかになった場合に該当するとして、その明らかとなった平成10年3月期に本件金銭債権を貸倒損失として損金経理したものである。

○そうすると、請求人が本件金銭債権を回収不能な債権として貸倒損失に計上したことは相当と認められる。

○原処分庁は、上記イの(ロ)の本件議事録に記載された債権放棄の記録は後日に追加記載されたものであり、債務免除通知書も送付されていないから請求人が債権放棄をした事実はない旨主張する。

 

○しかしながら、本件のように債務者に破産、債務超過等の事実が実質的に存在し、債権の回収が見込めないような場合には損金経理による貸倒損失の計上が認められるから、本件議事録に債権放棄の記載があるか否か、あるいは債務免除通知書を債務者に送付したか否かといった形式的な事実をもって判断すべきではない。

 

○以上のとおり、本件和解の内容は、その実質において判決と同一の法律効果はなく、請求人が本件金銭債権を貸倒損失として処理したことは相当と認められる。

 

○したがって、原処分庁が本件和解を有効なものとして、本件立退料を土地の取得価額として行った更正処分は違法であり、更正の理由附記に関する適否を判断するまでもなく、その全部を取り消すべきある。

いかがでしょうか?

甲社は「2回目の不渡りを出し、銀行取引停止となり、負債総額は約950億6,900万円」であり、「休業状態にあること、また、繰返し土地を譲渡しているが、多額な譲渡損失が発生していることから、所有している土地の価値は大幅に下落」という状況でありながらも、貸倒損失が否認されていますので、この取扱いの難しさを感じざるを得ません。

しかし、「事実上の貸倒れ」については通達があり、上記のような判断がなされていることも事実なので、当然に「全額が回収できないことが明らか」であれば、顧問先と相談の上、貸倒損失の計上を検討すべきなのです。

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