2015.03.18

信義則に反する税務調査

今回のテーマは、『信義則に反する税務調査』です。

前回のメルマガでは、納税者自らの身を守るために
「税務調査を録音すべき」ということを書きました。

つい先日、弊社に相談があったのも、「録音しておけば・・・」
と思わざるをえない事案でした。概略はこうです。
(かなり省略して書かせていただきます)

【相談内容】

税務調査があり、上席調査官が担当でした。
初日の段階で、請求書・領収書の一部保存がされていないため、
こちらから謝罪をして、仕入税額控除の否認だけで済ませて
欲しい旨を伝えたところ、その上席調査官は完全に了承しました。
(調査官レベルでは、税務調査を早く終わらせることも
重要なミッションだと考えています)

ところがその後、その上席調査官の上司にあたる統括官から
連絡があって、統括官が税務調査を行うとのこと。

後日、統括官による再度の調査が行われたところ、
事業概況の説明から質問など、先日行われた調査と
ほとんど同じだったため、社長が憤慨しました。

その上、仕入税額控除だけの否認だといって了承を得たはずなのに、
統括官は「そんなことは言っていない」と、謝罪などもせず、
調査を進めては、他の否認項目をどんどん追加していきました。
これに抗議はできないのでしょうか?

さて、このようなケースでは、繰り返しになりますが、
まず録音していないと、上席調査官の発言自体が
「言った・言わない」の争いになってしまい、ほぼ勝てません、
(録音していなくても、調査官が自らの発言を認めてくれる
のであれば勝てますが、認める人はほとんどいないでしょう)

録音していたとして、このような「常識に反する行為」に対して
抗議・訴えを起こす方法は、実はあります。
それは「信義誠実の原則」に違反していることを訴えることです。

信義誠実の原則とは、民法第1条第2項に、
総則として下記の規定があるのを根拠にしています。

民法第1条
2 権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。

「信義誠実の原則」を根拠として納税者側が訴えを
起こしているケースは、実はいくつかあり、
有名なものでは「ストックオプション課税」があります。

「ストックオプション課税」では、国税局課長名で編集された
質疑応答集などに、一時所得との見解があったにもかかわらず、
のちに給与所得として課税を行う方針変更を表明したのは、
信義誠実の原則に反するとして、納税者が訴えました。

また、それほど大きな事件ではなくても、
税務職員の「誤指導」などを筆頭に、
「信義誠実の原則」を問うた裁決事例も公開されています。

公開裁決事例集「信義誠実の原則」
http://www.kfs.go.jp/service/MP/01/0203010000.html

さらに、租税法律関係の訴訟で、はじめて信義誠実の原則の
適用を肯定的に判断した事例としては、
最高裁昭和62年10月30日第三小法廷判決があります。
(詳細な説明は、後日有料メルマガで書きます)

さて、不服申立てや訴訟などにいかずとも、
税務調査の現場で行われた、信義誠実の原則に逸脱した行為や発言は、民法を根拠に抗議・抗弁すべきです。

実際に弊社に相談があったケースでも、
調査官の否認指摘内容・根拠があまりにころころ変わるため、
信義誠実の原則を論拠に、統括官に抗議したところ、
そのまま税務調査が打ち切りになった例があります。

税法だけが抗議・抗弁の根拠ではないことはもちろん
知っていただきたいですし、特に税務調査での対応・処分が
「常識から考えて不当」だと思う場合には、
信義誠実の原則(民法)が適用になるのは知っておくべきです。

※2011年12月の当時の記事であり、以後の税制改正等の内容は反映されませんのでご注意ください。

また、ブログの内容等に関する質問は一切受け付けておりませんのでご留意ください。

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